輸送インフラの現場2026-07-21監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

北海道とフェリー輸送を担うトラックドライバーの働き方と休息時間

この記事の要点

「フェリーで着いたトラックが、なんでこんなに待たされるんですか」——苫小牧港の待機列で、若手のドライバーさんにそう聞かれたことがあります。船の到着が30分遅れただけで、その後の配送予定がドミノのように崩れていく様子を、僕はそのとき初めて肌で見ました。

結論から言うと、フェリー輸送は陸路だけの長距離輸送とは休息時間の数え方も、給料の付き方も少し違う仕組みで動いています。北海道は本州と地続きではないため、青函トンネルを通る鉄道貨物と並んで、苫小牧・室蘭・函館などの港からのフェリー・RORO船輸送が本州とをつなぐ大動脈のひとつになっています。この記事では、フェリー輸送を担うドライバーの1日の流れ、2024年問題(改善基準告示の見直し)との関係、そして稼げる運行と消耗する運行の違いを、僕の体感値と公的な基準を交えながら整理していきます。フェリー輸送は求人票だけだと働き方のイメージがつきにくい分野だと思うので、転職を考える前の整理材料として読んでいただければと思います。

0. 「海の上」も物流の現場だという話

物流というと、僕らはつい「陸を走っている時間」だけを想像してしまいます。しかし北海道発の長距離輸送を見ていくと、船に乗っている時間も立派な労働時間・拘束時間の一部として扱われている、という現実に必ずぶつかります。苫小牧港は北海道最大のフェリーターミナルで、大洗・仙台・名古屋方面など複数の航路が発着しており、青果や日用品、宅配便の幹線輸送を大量に担っています。国土交通省が公表している内航海運・フェリー輸送に関する統計を見ても、北海道と本州を結ぶ長距離フェリー航路は、トラック輸送の代替・補完手段として位置づけられていることが分かります。つまりフェリーは単なる移動手段ではなく、ドライバーの拘束時間・休息時間・生活リズムを大きく左右する「もう一つの現場」なのだと僕は考えています。この視点を持っておくと、後半で説明する2024年問題との関係もぐっと理解しやすくなるはずです。船の上では運転をしていないのに、なぜ拘束時間の話が出てくるのか——ここに引っかかった方は、まさにこの記事の本題に入る準備ができていると思います。

1. なぜ北海道の物流はフェリーに頼るのか

北海道から本州へ荷物を送る手段は、大きく分けて(1)青函トンネルを通る鉄道コンテナ、(2)苫小牧・室蘭・函館などからのフェリー・RORO船、(3)苫小牧港からの内航船、の3系統があります。このうちフェリー・RORO船は、ドライバーごと、あるいはトレーラー・シャーシごと本州へ渡せるという柔軟さがあり、農産物や宅配貨物のように「速く・こまめに・多頻度で」運ぶ必要がある荷物との相性が良いと言われています。苫小牧発の航路は、航路によって乗船時間が十数時間から30時間程度と幅があり、これは陸路でトラックを走らせるよりも運転時間そのものを圧縮できるという利点にもなります。一方で、船のスケジュールに運行全体が縛られるという特性もあります。出航・入港の時刻がずれると、その後の配送スケジュールが丸ごとずれてしまうため、フェリー輸送を組み込む会社では「船を待つ」時間そのものをどう扱うかが、働き方を決める大きな要素になっていると僕は感じています。北海道が「食料基地」として本州に一次産品を送り続けられているのは、この海の上の輸送インフラが陸路と同じくらい重要な役割を担っているからだと言えると思います。

2. フェリー輸送の二つの方式 — シャーシ方式とドライバー同乗方式

フェリー輸送の求人を見ていくと、大きく二つの運行形態に分かれていることが分かります。ひとつは「シャーシ方式」で、ドライバーはトレーラー(シャーシ)を港まで運んで乗せるだけで、自分は船に乗らずに戻り、本州側では別のドライバーが同じシャーシを引き継いで走る仕組みです。もうひとつは「ドライバー同乗方式」で、ドライバー自身がトラックやトレーラーとともに船に乗り、下船後もそのまま運転を続けるスタイルです。シャーシ方式は港と港の間の移動を船と別のドライバーに任せられるため、拘束時間が比較的読みやすく、生活リズムを崩しにくいというメリットがあります。一方でドライバー同乗方式は、船内で休息を取りながら一度に長距離を運べる分、乗船中の過ごし方や個室・相部屋の設備が働きやすさに直結します。実際に僕が話を聞いたケースで言うと、シャーシ方式で働く方は「毎日同じくらいの時間に帰宅できるので家族との時間が読みやすい」と話していました。逆に同乗方式で働く方は「船に乗っている間はスマホを見たり寝たりできるので、拘束時間は長くても体感的にはそこまで辛くない」と言っていて、同じ「フェリー輸送」でも生活リズムへの影響がまったく違うのだと感じさせられました。どちらの方式かは求人票の「運行形態」欄や面接での説明で確認できることが多いので、応募前に必ず確認しておきたいポイントだと僕は考えています。

3. フェリードライバーの1日 — 乗船前・船内・下船後

ドライバー同乗方式を例に、1日の流れを整理してみます。まず乗船前には、車両点検・積載確認・点呼を済ませ、乗船手続きの列に並びます。苫小牧港では出航前の1〜2時間程度は待機時間になることが多く、この時間の扱いが会社によって異なります。乗船後は、個室が用意されている場合もあれば、複数人での相部屋やカーペット敷きの休憩スペースになる場合もあり、シャワーや食堂の有無も航路・船会社によってさまざまです。船内では基本的に運転業務がないため、多くの求人ではこの時間を「休息時間」として位置づけていますが、荷物の見回りや点検を求められる場合は「待機時間」扱いになることもあります。下船後は、港での通関・点呼を経て、そのまま配送先へ向かうか、いったん営業所で休息を取ってから運行を再開するかに分かれます。僕がドライバーさんから聞いた実例では、下船直後にそのまま数時間運転を続ける運行と、下船後にまず休息を挟む運行とで、体感的な疲労感がかなり違うという声が多くありました。ある方は「船で寝たはずなのに、下船後に3時間走ると急に眠気が来る」と話していて、乗船中の休息が本当の意味での回復になっているかどうかは、個人差もかなり大きいのだと感じさせられました。この「下船後すぐに走るかどうか」は、面接で確認しておく価値が大きいポイントだと思います。

4. 2024年問題とフェリーのかみ合わせ — 休息時間はどう数えるか

2024年4月に見直された、厚生労働省の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)では、拘束時間の上限や休息時間の確保の考え方がより厳格になりました。フェリー乗船中の時間は、一定の条件(運転業務がなく、実際に休息が取れる環境であること)を満たせば休息時間として扱うことができるとされており、この仕組みをうまく使うことで、下船後の運転時間を確保しながら、1日あたりの拘束時間の上限を守るという運行の組み方が広がってきました。逆に言うと、乗船時間を休息時間として認めてもらえない、あるいは乗船前後の待機時間が長すぎる運行は、拘束時間の上限に引っかかりやすくなり、会社側も運行を組みにくくなっています。僕の体感値では、2024年問題以降、フェリーを使う長距離運行は「船の時間をどう休息に組み込むか」を会社側が以前より意識するようになったという印象があります。これはドライバー側にとっても、無理な連続運転が減るという意味でプラスに働いている部分があると考えています。ただし、この運用がすべての会社で徹底されているとは限らないという点も、正直に付け加えておきたいと思います。改善基準告示は最低限のルールであって、それを上回る配慮をしてくれる会社かどうかは、面接や実際に働いている社員の声から判断するしかないというのが、僕の実感です。

5. 稼げる運行と消耗する運行 — ケース比較とよくある失敗

フェリー輸送の給料構造は、基本給に距離手当・乗船手当・待機手当などが組み合わさる形が多く見られます。僕の体感値で言うと、乗船時間が長い航路ほど、乗船手当がしっかり付いている会社の方が、実質的な時給換算では安定して稼げる傾向があるように思います。一方で、乗船手当がほとんど付かず、下船後にまとまった距離をすぐ走らされる運行は、身体的な消耗が大きいのに給料面での上乗せが少なく、離職につながりやすい組み合わせだと感じています。ここで、対照的な二つのケースを見てみます。Aさんは苫小牧〜大洗の航路で、乗船中は明確に休息時間扱い・乗船手当も別途支給される会社で働き、下船後は営業所で一度休息を挟んでから配送に出るスケジュールでした。Aさんは「体力的にはかなり楽で、長く続けられそう」と話していました。一方でBさんは、乗船手当がなく、下船後すぐに長距離を走らされるスケジュールの会社に勤めていました。給料は距離手当中心で一見悪くない数字に見えても、実際に時給換算すると見劣りする上に、疲労の蓅積が早く、Bさんは半年ほどで転職を考えるようになったと話していました。このケースからも分かるように、同じ「フェリー輸送ドライバー」という肩書きでも、条件面での差はかなり大きいということです。よくある失敗としては、求人票の「距離手当◯円」という表記だけを見て応募を決めてしまい、乗船時間の扱いや下船後のスケジュールを確認しないまま入社してしまうパターンが挙げられます。この失敗を避けるには、面接の場で「乗船中は休息時間ですか、待機時間ですか」「下船後はすぐ運転になりますか」という2点を、遠慮せずそのまま質問することをおすすめします。

6. 今日からできる確認と行動ステップ

ここまでの内容を、実際に求人を見るときの行動に落とし込んでみます。まず所要時間5分ほどで済む作業として、気になる求人票の「運行形態」欄と「手当」欄を読み直し、シャーシ方式か同乗方式か、乗船手当の記載があるかどうかをメモしておいてください。次に、面接や職場見学の場で、10分ほどの時間を使って以下の点を確認することをおすすめします。ひとつ目は、乗船時間が休息時間扱いか待機時間扱いか、給料が発生するかどうか。ふたつ目は、乗船中の設備(個室・相部屋・シャワー・食堂の有無)。みっつ目は、下船後にすぐ長時間運転になるのか、休息を挟むスケジュールなのか。よっつ目は、繁忙期(お盆・年末年始・農産物の出荷期など)にダイヤやスケジュールがどう変わるか、です。これらは求人票だけでは分からないことが多いので、面接や面談の場で具体的に聞いてしまうのが一番確実だと僕は考えています。「聞きにくいから」とここを避けてしまうと、入社後に「思っていた働き方と違った」というギャップにつながりやすいので、遠慮せず確認してほしいポイントです。もし可能であれば、実際にその航路を使って働いている先輩ドライバーに、乗船中の過ごし方や疲労感について一言でも聞けると、求人票の文字情報よりもずっと確度の高い判断材料になると思います。

7.(結論)フェリーは「海の上の物流」——確認して選べば怖くない

北海道発のフェリー輸送は、船のスケジュールに合わせて運行が組まれる、少し独特な働き方です。船内の時間が休息扱いになるか待機扱いになるか、下船後すぐに走らされるかどうかで、体感的な働きやすさも給料も大きく変わってきます。2024年問題を経て、拘束時間・休息時間の考え方がより丁寧に運用されるようになった今は、以前よりも無理のない運行が組みやすくなってきているというのが僕の実感です。とはいえ、それでも会社ごとの差は残っていますから、シャーシ方式か同乗方式か、乗船手当の有無、下船後のスケジュールといった具体的なポイントを、面接や面談の場で必ず確認してほしいと思います。皆さんいかがでしたでしょうか。フェリー輸送という少し特殊な現場についても、仕組みを知っておけば怖がる必要はありません。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. フェリー輸送のドライバーは船内でも給料が発生しますか?

結論としては、乗船中が「休息時間」扱いか「待機時間」扱いかで変わり、求人によって差があります。休息時間扱いの場合は給料が発生しない代わりに拘束時間としてカウントされないケースが多く、待機・作業扱いの場合は手当が出ることがあります。僕の体感値では、乗船手当という形で別途数千円程度が付く求人が一定数あり、面接時にどちらの扱いか、手当の有無を確認することをおすすめしています。

Q. 苫小牧発のフェリー輸送は2024年問題でどう変わりましたか?

2024年4月に見直された改善基準告示により、拘束時間・休息時間の考え方がより厳格に運用されるようになりました。フェリー乗船中を休息時間として組み込みやすくなった一方で、下船後にすぐ長時間運転を続けるような運行は組みにくくなっています。結果として、乗船時間を含めた1日あたりの拘束時間の上限を意識した運行計画が増えてきたと僕は感じています。

Q. シャーシ方式とドライバー同乗方式、どちらが働きやすいですか?

結論としては、生活リズムを崩したくない方はシャーシ方式、長距離を通しで走りたい方は同乗方式が向いていると僕は考えています。シャーシ方式は港と港でトラクターを乗り換えるため乗船中の拘束が発生しにくく、同乗方式は船内で休息を取りながら長距離を一気に運べます。どちらも一長一短なので、求人票の運行形態の記載を必ず確認してください。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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